抗HIV薬療法の概要 OVERVIEW OF ANTIRETROVIRAL
THERAPY

目次

目標

当プログラムの目標は、抗レトロウイルス療法(ART)の目標を理解することから始まる。
そして、HIV感染者に対するARTの開始時期を見きわめ、開始に関する現在のガイドラインを確認することが重要である。
また、一次治療としてのARTレジメンの選択は、患者の特性に基づいて選択する必要があり、未治療のHIV感染者に対する抗レトロウイルス療法の種類について理解することもきわめて重要な点である。
さらに、ウイルス学的抑制が得られている患者に対するARTの切り替えや簡素化の原則についても、十分に調査し確認する必要があることも理解していただきたい。

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当プログラムの略語

当プログラムで使用する略語の中から、特筆すべき点を示す。 まず、DHHSは米国保健福祉省であり、米国のガイドラインを発行し、その一部を検討する。EACSは欧州エイズ臨床学会であり、欧州のガイドラインを発行している。
その他、STRは1日1回1錠レジメン、VFはウイルス学的失敗のことである。その他にも、主に薬剤について話すときに用いる略語、例えば、DRVはダルナビル、TAFはテノホビルの新規プロドラッグであるテノホビルアラフェナミドフマル酸塩などである。

当プログラムで疑問に思うことがあれば、このスライドに戻ってきて確認していただきたい。使用している略語の意味を確認することができる。

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ART導入後30年、その目標と提供方法における進歩

1987年にジドブジンが導入されて以降、抗レトロウイルス療法(ART)は大きく進歩した。

ジドブジンが導入された当時の治療目標は、実際に疾患の進行を遅らせることであった。当時、HIV感染者の死亡率は高かった。患者はHIV感染症が進行した段階で初めて診断を受けたため、複数の日和見感染と診断され、診断後まもなく死亡することが多かった。しかし、ジドブジン単剤療法は多くの欠点があり、その後、2剤療法、また1995~1996年には3剤ARTが登場した。3剤ARTでは複数の錠剤を1日数回服用する必要、そして各薬剤はそれぞれの副作用プロファイルがあり、さまざまな短期毒性と長期毒性がみられた。2006年に、最初の1日1回1錠レジメンが導入され、2020年までの間に、有効性と忍容性が大きく向上した1日1回1錠レジメンが開発されてきた。
そして、治療目標は疾患の進行を遅らせることから、最大のウイルス学的抑制を得ること、1日1回1錠レジメンなど治療選択肢の改善へと変化してきている。

HAART療法導入後
AIDS指標疾患およびHIV感染症関連の罹患率と死亡率は大幅に減少した。 ARTによる治療は、HIVの複製を抑制して免疫機能を改善するだけでなく、HIV関連の併存疾患(HIV関連腎症、AIDS指標悪性腫瘍および非AIDS指標悪性腫瘍、HIV関連神経認知障害など)の発症を減少させ、HIV感染を減少させることが実証されている。
このような進歩により、多くのHIV感染者が、現在は非感染者とほとんど変わらない生涯を送ることができると期待されている。

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ARTの有効性を制限する要因

ARTの成功のために最も重要なのは、HIV感染者が生涯にわたり治療を継続しなければならないことを積極的に受け入れること、治療を遵守すること(アドヒアランス)である。過去には、ARTに関連する急性および長期的な副作用が治療へのアドヒアランスを低下させ、治療の失敗に至ることがあった。しかし、新しい薬剤が登場し、ARTの管理に対する理解が深まるにつれ、現在の併用療法は毒性が低く、錠剤数の負担が軽減され、有効性が向上しているため、多くの患者が95%超のアドヒアランスを達成できるようになっている。

ARTの成功に重大な影響を及ぼす可能性のあるその他の懸念事項は以下の通りである:
  • 長期ARTへのアクセスおよび費用(特に資源が限られた地域において)
  • 社会的および経済的要因
  • 薬物相互作用
  • C型およびB型肝炎、肝疾患、結核、心血管疾患、糖尿病、骨粗鬆症または骨減少症、高脂血症、腎疾患、精神障害および薬物依存などの併存疾患

ART開始前に各患者のアドヒアランスに対する障壁を認識して対処することで、長期治療のアウトカムに非常に大きな効果をもたらしている。

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