特別な集団に対するARTの管理 Management of ART
for Special Populations

高齢HIV感染者の管理

50歳超のHIV感染者数の増加に伴い、管理もより複雑になる1

  • 新たに、HIV感染と診断される50歳以上の患者数は増加している。50歳以上のHIV感染者の割合は、2010年の28%から2030年までに73%に増加すると推定されている1
  • この集団は、疾患の後期にHIV感染と診断される可能性がより高い。 
  • 医療提供者および高齢者は、HIV感染症の存在/進行を通常の老化現象と勘違いすることが多く、これは特に、HIV感染症と老化現象は両方とも慢性炎症と免疫系の活性化を伴うためである2。MARK AGE共同研究によって特定された10種類の信頼性の高いバイオマーカーのパネルを用いて行われた研究では、血漿中のHIV RNA量が検出限界値未満であったHIV感染者の生物学的年齢は実年齢より13歳上であり、この差はいずれの対照群よりも有意に大きいことが明らかとなった。生活習慣でマッチングさせた非感染者からなる対照群の生物学的年齢は5.5歳上と報告されたのに対し、健康な血液ドナーでは生物学的年齢が7歳若いと報告されたことから、老化速度に生活習慣因子が寄与していることが強調された3
  • 2018年に米国で新たにHIV感染と診断された37,968例の患者のうち、17%が50歳以上であった4
  • 2016年には、世界の50歳以上のHIV感染者は570万例(470~660万例)と推定された5
  • 高齢HIV感染者の治療は、最適なARTを選択する際、他の非感染性疾患/併存疾患、薬物・薬物相互作用、腎機能および/または肝機能、およびART関連事象の可能性の増加を考慮しなければならず、医療提供者に独自の課題をもたらす。
  • 現在、このような高齢HIV感染者集団に対する安全で適切な意思決定において、医療提供者の手助けとなる臨床試験データ、システマティックレビュー、ガイドラインは少ない。
  • しかし、ARTを受けながらHIV感染者が長生きすることの意義を無視することはできない。

参考文献

  1. Smit M, Brinkman K, Geerlings S, et al. Future challenges for clinical care of an ageing population infected with HIV: a modelling study. Lancet Infect Dis. 2015;15:810-818.
  2. Nasi M, Pinti M, De Biasi S, et al. Aging with HIV infection: A journey to the center of inflamm AIDS, immunosenescence and neuroHIV. Immunol Lett. 2014;162(1 Pt B):329-333.
  3. DeFrancesco D, Wit FW, Bȕrkle, et al. Do people living with HIV experience greater age advancement than their HIV-negative counterparts? AIDS. 2019 33(2)259-268.
  4. CDC. HIV and Older Americans. Available at: https://www.cdc.gov/hiv/group/age/olderamericans/index.html. Accessed July 13, 2021.
  5. Autenrieth CS, Beck EJ, Stezle D, et al. Global and regional trends of people living with HIV aged 50 and over: Estimates and projections for 2000-2020. PLoS One. 2018;13(11):e0207005.

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ARTを受けている高齢HIV感染者では薬物・薬物相互作用のモニタリングが重要

医療提供者は、ARTではアドヒアランスがきわめて重要であることを患者に伝えなければならないが、高齢HIV感染者でよくみられる薬物・薬物相互作用(DDI)についても認識しておかなければならない。

抗HIV薬と高齢HIV感染者によく処方される薬剤との間に、重要なDDIが存在することを示した多くのDDI試験があるが、これらの薬物動態試験の大半は、HIVに感染していない若い健康成人を対象に実施されたものである。そのため、これらの研究結果を高齢HIV感染者の集団に一般化できない可能性がある。

Swiss HIV Cohort Studyの解析より、高齢HIV感染者の44%が複数の薬剤投与を受けており、31%にDDIのリスクがあり、ベンゾジアゼピン系と睡眠薬が最も多く処方されていることが明らかとなった。このリスクは、年齢が上がるほど増加する。

医療提供者は、薬剤リストを常に確認し重要なDDIについて調べなければならない。また、利用可能なオンラインのリソース(例えば、http://www.hiv-druginteractions.org)を用いてDDIについてチェックしなければならない。

参考資料

  1. Courlet P, Livio F, Guidi M, et al. Polypharmacy, drug-drug interactions, and inappropriate drugs: New challenges in the aging population with HIV. Open Forum Infec Dis. 2019;6(12):ofz531.

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高齢HIV感染者におけるARTの有効性、忍容性を調べた臨床試験

ECHO試験、THRIVE試験(RPVとEFVを比較した第III相試験)

ECHO試験およびTHRIVE試験に組み入れられた高齢者(50歳以上)と若年者(50歳未満)における有効性と安全性の潜在的な差を検討した事後解析1により、RPV投与を受けた高齢および若年のHIV感染者におけるウイルス学的反応率は類似しており(それぞれ、77%および76%)、EFV投与を受けた高齢者(84%)の方が若年者(76%)よりもウイルス学的著効率が数値的に高いことが明らかとなった。免疫反応には、臨床的に意義のある年齢関連差は認められなかった。有害事象(EFV投与を受けた高齢者の方がうつ病、不眠症および発疹の発現率が高い)、臨床検査値の異常(EFVの投与を受けた高齢者で低比重リポタンパクコレステロールの増加および高血糖、すべての投与群の高齢者でアミラーゼ値の増加)、骨密度(すべての投与群の高齢者の方が大幅に減少)、重度のビタミンD欠乏の進行(EFV投与を受けた高齢HIV感染者の方が若年者よりもそのリスクが高い)について、高齢および若年HIV感染者の間にわずかな差が認められた。

GEPPO試験2

65歳超のHIV感染者の2015年8月~2017年11月のINSTI使用の動向を明らかにするための解析において、GEPPOコホートの研究者らは、1,183例を評価した。INSTIを使用している患者の割合は21%から48%に増加した(P<0.001)。同期間にドルテグラビル使用率は4%から48%に増加したのに対し、ラルテグラビル使用率は79%から31%に減少した。2017年にドルテグラビル服用患者の半数以上(55%)が、2剤併用療法としてドルテグラビルを服用していた。2017年に最も多く処方されていた2剤併用療法は、DTG+3TC/FTC(23%)、DTG+NNRTI 1剤(22%)またはDTG+PI 1剤(21%)であった。

ATLAS試験およびFLARE試験:(LA CAB+RPV)3

50歳以上および50歳未満の患者における有効性、安全性および忍容性は同等であった。LA CAB+RPV群の治療満足度はベースラインよりも改善し、年齢別でも同程度であった。

COHERE試験4

COHERE試験では、年齢別のウイルス学的および免疫学的反応を測定するために、1998~2006年にART未経験のHIV感染者でARTを開始した49,921例を登録した。
ウイルス学的反応がみられる確率は50~54歳(調整ハザード比1.24)、55~59歳(1.24)、60歳以上(1.18)でより高かったが、免疫反応がみられる確率は60歳以上の患者で7%低かった(0.93[95%信頼区間(CI):0.87~0.98])。時間依存性共変量としての最新のCD4+T細胞数で調整後も、AIDS発症リスクは55~59歳と60歳以上の患者で依然として高かった(55~59歳:1.18[95%CI:1.05~1.34]、60歳以上:1.32[95%CI:1.17~1.48])。

Kaiser Permanente California社の医療プランの会員を対象とした研究5

Kaiser Permanente California社の医療プランの治療を受けているHIV感染者を対象とした後ろ向きコホート研究の解析から、追加の裏付けデータが得られている。この研究では、5,090例を対象とした後ろ向き解析において、ウイルス学的および免疫学的アウトカムを測定し、年齢群別に層別化した(Silverberg, 2007)。50歳超の患者は、若年者と比較してウイルス量が検出限界値未満に達する確率がより高かったが、この年齢別の効果は、抗HIV薬へのアドヒアランスで調整すると消失した。一方、若年者(131.8細胞/mm3/年)では、50歳超の患者(111.8細胞/mm3/年、P=0.046)に比べCD4+細胞数が大幅に増加する確率がより高かった。この効果は、ART開始後1年間で最も顕著であった。50歳超の患者では、血清クレアチニン値増加およびヘモグロビン濃度低下のリスク増加も認められた。

参考文献

  1. Ryan R, Dayaram YK, Schaible D, Coate B, Anderson D. Outcomes in older versus younger patients over 96 weeks in HIV-1-infected patients treated with rilpivirine or efavirenz in ECHO and THRIVE. Curr HIV Res. 2013;11:570-575.
  2. Nozza S, Calza S, Guaraldi G, et al. Use of integrase strand transfer inhibitors (INSTIs) in a cohort of HIV-infected geriatric patients (GEPPO cohort). HIV Drug Therapy, Glasgow 2018. October 28-31, 2018. Abstract P155.
  3. Benn P, Dakhia S, Wu S, et al. Long-acting cabotegravir + rilpivirine in older adults: pooled phase 3 week-48 results. CROI 2021. Abstract 402.
  4. Collaboration of Observational HIV Epidemiological Research Europe (COHERE) Study Group, Sabin CA, Smith CJ, d'Arminio Monforte A, et al. Response to combination antiretroviral therapy: Variation by age. AIDS. 2008;22:1463-1473.
  5. Silverberg MJ, Leyden W, Horberg MA, DeLorenze GN, Klein D, Quesenberry CP Jr. Older age and the response to and tolerability of antiretroviral therapy. Arch Intern Med. 2007;167:684-691.

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代謝に影響を及ぼし得る抗HIV薬は、高齢者には慎重に使用

CVD

初期の抗HIV薬で認められるリポジストロフィーは、HIV感染者におけるアテローム性動脈硬化病変を予測していた。代謝の観点からみると、より新しい薬剤は脂質に及ぼす影響が少ないプロファイルを有しているが、ARTがCVDリスクに及ぼす影響はHIV感染自体と関連する根本的な心血管リスクによって調節されるため、このベネフィットが必ずしもHIV感染者の心血管リスクの確実な減少につながるわけではない。

  • さらなる考慮事項として、可能であれば、糖尿病または高インスリン血症を有する患者にはリトナビルでブーストしたPIベースの初回レジメンを避けるべきである1
  • いくつかのコホート研究において、ABCは心筋梗塞リスクの増加と関連づけられている。その絶対リスクは、従来のCVDリスク因子を有する患者で最も高い2
腎疾患

ARTの使用は腎機能の維持と関連すること、腎機能の改善につながる可能性があること、および治療中断中に腎機能が低下することを示す研究結果に基づき、至適ARTは、HIVANの発現を予防またはその進行を止めることができると考えられる。
しかし、特定の抗HIV薬(特にTDF)は腎毒性と関連づけられているため、特に腎毒性のある他の薬剤も投与されている患者においては、腎機能のモニタリングがきわめて重要である3
TAFは、TDFと比較して血清クレアチニン値増加および推定糸球体濾過率減少が小さいことを示す臨床データがあり、その結果、治療開始時のクレアチニンクリアランスカットオフ値がより低い3

肝毒性

複数のクラスの抗HIV薬は肝毒性を伴い、ある特定の薬剤は重度の肝障害を引き起こし得るため、ガイドラインではもはや望ましい薬剤として推奨されていない(例えば、didanosine、stavudine、ネビラピン)。
現在使用されている抗HIV薬(特にPI)に関しては、治療開始の数ヵ月後に肝毒性が発現する可能性がある。また、肝機能のさらなる悪化により、薬物の消失が妨げられ、薬物の蓄積が引き起こされる可能性がある。
曝露後感染予防薬のレジメンの一部としてNVPを投与した被験者では、重度の肝毒性が数例報告されており、一部は致死的であった4

ARTの投与は骨密度の低下と関連付けられており、さまざまな程度の骨量減少は、初期の治療で使用するすべての薬剤でみられる一貫した特徴である。これは、ARTによりウイルス量が減少し、炎症性サイトカインが増加するために骨代謝回転が低下することに起因すると考えられている。
TDFに関連づけられる脊椎および股関節の骨量減少は、ABCよりも大きい5。臨床試験において、テノホビルの新規製剤であるTAFに関連する骨量減少はより少ないことが示されている。
さらに、特定の薬剤(EFV、ZDV)もビタミンD濃度に影響を及ぼす可能性がある。骨粗鬆症のリスク因子を有することが分かっている患者では、可能な限りプロトンポンプ阻害剤やステロイドの長期併用を避けなければならない。 

CNS

中枢神経系ART、特にEFVにより、神経認知障害/精神医学的合併症がみられる可能性がある。また、併用ARTにより、末梢性ニューロパチーがみられる可能性もあるが、現在のレジメンではあまりみられない6

体重増加

インテグラーゼ阻害薬およびTAFはHIV感染者の体重増加の一因となっており、これにより重篤となり得る医学的合併症のリスクが高まる可能性がある7

BMD:骨密度、CVD:心血管疾患、DM:糖尿病、HIVAN:HIV関連腎症、TAF:テノホビルアラフェナミドフマル酸塩、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩

参考文献

  1. Abrass CK, Appelbaum JS, Boyd CM, et al. Summary report from the Human Immunodeficiency Virus and Aging Consensus Project: Treatment strategies for clinicians managing older individuals with the human immunodeficiency virus. J Am Geriatr Soc. 2012;60:974-979.
  2. Panel on Antiretroviral Guidelines for Adults and Adolescents. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Adults and Adolescents with HIV. Department of Health and Human Services. Available at https://clinicalinfo.hiv.gov/sites/default/files/guidelines/documents/ AdultandAdolescentGL.pdf. Jan 20, 2022. Accessed Feb 24, 2022.
  3. Sax PE, Wohl D, Yin MT, et al. Tenofovir alafenamide versus tenofovir disoproxil fumarate, coformulated with elvitegravir, cobicistat, and emtricitabine, for initial treatment of HIV-1 infection: Two randomised, double-blind, phase III, non-inferiority trials. Lancet. 2015;385:2606-2615.
  4. CDC. Serious adverse events attributed to nevirapine regimens for postexposure prophylaxis after HIV exposures-worldwide, 1997-2000. Morb Wkly Rep. 2001;49:1153-56.
  5. McComsey G, Kitch D, Daar ES, et al. Bone mineral density and fractures in antiretroviral-naïve persons randomized to receive abacavir-lamivudine or tenofovir disoproxil fumarate-emtricitabine along with efavirenz or atazanavir-ritonavir: AIDS Clinical Trials Group A5224s, a substudy of ACTG A5202. J Infect Dis. 2011;203:1791-1801.
  6. Sustiva Package Insert. Bristol-Myers Squibb Company. 2017. Available at: https://packageinserts.bms.com/pi/pi_sustiva.pdf. Accessed July 12, 2021.
  7. Lake JE, Trevillyan J. Impact of Integrase inhibitors and tenofovir alafenamide on weight gain in people with HIV. Curr Opin HIV AIDS. 2021;16(3):148-151.

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HIV感染期間>20年は多疾患および多剤併用の主な要因

現在、HIV感染者集団の加齢について明らかになりつつある。併存疾患は加齢に伴い増加するため、HIV感染の背景における併存疾患の発生に関しては、年齢関連の寄与因子について議論する必要がある。GEPPOは、特に高齢者のHIV感染を評価するために設立された欧州の前向きコホートである。このコホートの年齢カットオフ値は、HIV感染の背景で老年と定義されることが多い50歳ではなく、65歳以上であった。GEPPOには、マッチさせたHIV非感染者集団も含まれている。 

横断分析を用いて、Guaraldiらは、75歳以上のGEPPOコホート参加者492例(HIV感染者292例とHIV非感染者200例)を対象に、HIVセロステータス別の多剤併用の割合、多疾患罹患の割合およびARTの使用率を評価した。後年になってからHIVに感染した患者と何十年にもわたってHIVに感染している患者は異なるため、患者をHIV感染期間(10年未満、10~20年、20年超)で層別化した。多疾患罹患は、HIV関連疾患以外の併存症3つ以上を有する場合と定義した。多剤併用は、HIV感染者がARTに加えて5種類以上の薬剤を服用する場合と定義した。

この研究では多くの高齢HIV感染者に着目しているが、注目すべきなのは、ほとんどのHIVおよび加齢に関する研究では75歳超の患者は四分位範囲を外れる傾向があるのに対し、この研究では75歳超のHIV感染者に関する報告が最も多くなっている。

この研究における多疾患罹患および多剤併用の主な要因は、HIV感染期間の長さであった。特に、HIV感染歴が20年超の患者で、HIV関連疾患と加齢関連疾患の両方が発現するまでの十分な期間があった場合は、多疾患罹患(OR:2.31、95%CI:1.05~5.435、P=0.044)および多剤併用(OR:2.36、95%CI:1.224~4.612、P=0.01)である可能性が有意に高かった。一般的に、高齢HIV感染者集団と同年齢のHIV非感染集団を比較する際には、HIV感染者群に関する生存バイアスが存在するが、この解析は75歳超の患者に着目しているため、生存バイアスは、HIV感染者群のみではなく、HIV感染者群とHIV非感染者群の両方に関して存在する。

さらに、この年齢群のHIV感染者で予想される通り、35.3%がHAART療法導入前の時代に2剤併用療法(28.7%)または単剤療法(6.6%)を受けていた。現在、それぞれ56.4%と59.3%がNRTI-sparingレジメンとブースターを用いないレジメンの投与を受けている。スタチンは、HIV感染者のほうが非感染者よりも処方率が高く(それぞれ47.6% vs 22.3%)、これはHIVとARTの両方による既知の脂質に対する作用と一致している。また、ベンゾジアゼピン系薬剤は処方率が低かった(それぞれ3.5% vs 18.4%)。 

ATHENAコホートのモデリング研究では、2030年に20%の患者がART以外に3剤以上の薬剤の投与を受けると予測された2

ART:抗レトロウイルス療法、OR:オッズ比

参考文献

  1. Guaraldi G, Malagoli A, Calcagno A, et al. The increasing burden and complexity of multi-morbidity and polypharmacy in geriatric HIV patients: a cross sectional study of people aged 65-74 years and more than 75 years. BMC Geriatrics. 2018;18:99.
  2. Smit M, Brinkman K, Geerlings S, et al. Future challenges for clinical care of an ageing population infected with HIV: a modelling study. Lancet Infect Dis. 2015;15:810-818.

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多疾患罹患率および死亡リスクは性別によって異なる

多疾患罹患が多剤併用ARTを受けているHIV感染者の死亡を予測するか、これが年齢および/または性別によって異なるかについて、ATHENAコホート(2000~2016年)の研究者らが調査した。特定された併存疾患は、心血管疾患、脳卒中、非AIDS関連悪性腫瘍、中等度~重度の慢性腎疾患、高血圧、糖尿病、肥満などであった。HIV感染者24,000例超(女性19%)を解析対象とした。4つの併存疾患が存在する場合、調整後の死亡リスクは23.8倍になった。3つの併存疾患が存在する場合、この増加は補正した解析では13.9倍に抑えられ、2つの併存疾患では6.1倍、1つの併存疾患のみでは3.6倍の増加であった。多疾患罹患は死亡率と独立して強く関連している。

18~69歳の年齢カテゴリーでは、併存疾患が1~4つの患者は男性よりも女性が多かった。併存疾患が3および4つの患者の死亡率は、女性は男性と比較して69%および121%高かった。

男性患者に比べ、女性患者では年齢が低いほど多疾患罹患が多くみられるが、50歳以降の割合は同程度である。その要因は主に肥満である。

全死因死亡率は女性のほうが低いが、男性よりも多疾患罹患の影響を強く受けている。

参考文献

  1. Wit F, van der Valk M, Gisolf J, et al. Multimorbidity and risk of death differs by gender in people living with HIV in the Netherlands – the ATHENA cohort study. Glasgow 2018. Abstract O115.

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HIV感染者は最大で21年早く慢性疾患と診断された

カナダのBritish Columbia州の研究者らは、COASTコホートを対象に解析を行い、HIV感染者とHIV非感染者(対照)における加齢に伴う慢性併存疾患および精神的健康に関連する併存疾患の有病率と、これらの併存疾患の診断時年齢の傾向を評価した。

解析にはHIV感染者8,031例とHIV非感染者32,124例が含まれ、ベースラインの年齢の中央値は40歳、82%が男性、追跡期間の中央値は9年 vs 11年であった。両集団とも、ほとんどの併存疾患の有病率は年々増加する傾向がみられた。HIV感染者は医療機関への受診率がより高かった:併存疾患と診断されるまでの期間が短いほど、より高い受診率であった。医療機関への受診で調整すると、アルツハイマー病および/またはHIVに関連しない認知症を有するHIV感染者では、診断時の年齢に最も大きな差がみられ、HIV非感染者(対照)より14~21年早く診断されていた。

参考文献

  1. Nanditha NG, Paiero A, Tafessu H, et al. Excess burden of age-associated comorbidities among people living with HIV in British Columbia, Canada: a population-based cohort study. BMJ Open. 2021;11(1):e041734.

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高齢HIV感染者集団におけるフレイルは、2030年までに倍増する予測

HIV感染者集団の加齢に関する別の研究において、Guaraldiら1は、イタリアのModena HIV Metabolic Clinicコホートの3,086例のデータをもとに「高齢者HIV」の個体ベースモデルを作成した。この研究の目標は、2009~2015年に収集された患者のデータから、その後2030年までの15年間にこれらの患者に何が起こるかの予測のために使用可能なモデルを構築することであった。

このモデルに組み入れたアウトカムは、Frailty Index、転倒、障害であった。長年用いられてきたRockwoodのFrailty Indexを適応させたFrailty Indexは、健康アウトカムに関連する37項目のうち加齢に伴い累積する異常所見を示す項目の割合のことである。割合が0.3未満、0.3~0.4、0.4超のHIV感染者は、それぞれフレイルではない、フレイル、フレイルの程度が高いとみなした。この尺度は、実際の患者集団に合わせて修正した。転倒は、過去12ヵ月以内に立位、歩行、屈曲位から地面に転倒したと自己報告した回数と定義した。障害は、基本的な日常生活動作の1つ以上における障害と定義した。

このモデリング研究は、HIV感染者からなるHAILOコホート(967例)を対象とした研究結果により裏づけられた。このコホートには、ACTG(AIDS Clinical Trials Group)の臨床試験を通じてARTを受けたことがある40歳以上のHIV感染者が登録されている。登録来院時にフレイルの評価を行い、その後、12ヵ月間の転倒発生に関するインタビューを実施した。フレイル、握力、自己報告による体重減少を評価した。プレフレイルおよびフレイルの高齢HIV感染者は、フレイルではないHIV感染者と比較して転倒リスクが有意に高かった。フレイル評価のそれぞれの要素は、転倒の再発の有用な予測因子である可能性がある2

フレイルは、他の領域に影響を及ぼす可能性がある。ウイルス学的に十分に抑制されているHIV感染者の集団を対象に白質統合性、神経心理学的パフォーマンスおよびフレイルの関係を評価した研究では、フレイルのHIV感染者における脳血流量の減少と、その領域での構造的結合性の減少が認められた。

Mann-Whitney検定により、フレイルのHIV感染者は4つの領域を結ぶ白質の異方性比率がフレイルではないHIV感染者よりも有意に低いことが明らかとなり(p=0.03)、この研究で使用したfrailty indexと関連する行動変化の考えられる病因が示唆された3

ALIVE研究(Maryland州BaltimoreのHIV感染者およびHIV非感染者からなるコミュニティベースのコホート)では、HIV感染者(417例)および非感染者(886例)におけるフレイルを評価し4、フレイルの有病率は、全体で12.%、HIV感染者で13.4%であった。フレイルはあらゆる原因による入院率と有意に関連していた(HR:1.41、95%CI:1.06~1.87、p<0.05)。

HIV感染者におけるフレイルと、CD4/CD8比で示される免疫活性化およびCD4+細胞数で示される免疫不全との間には負の相関がみられた。前者との相関は線形を示し、後者との相関は900細胞/mm3で曲がるフック型を示す。このカットオフ値を上回るCD4+細胞数は、フレイルの有意なリスク因子ではない5

ART:抗レトロウイルス療法、FI:Frailty Index

参考文献

  1. Guaraldi G, De Francesco D, Malagoli A, et al. Future challenges for clinical care of an ageing population infected with HIV: A "geriatric-HIV" modelling study. Program and abstracts of the 18th International Workshop on Co-morbidities and Adverse Drug Reactions in HIV; September 12-13, 2016; New York, New York. Abstract P06.
  2. Tassiopoulos K, Abdo M, Koletar S, et al. Frailty status and risk of falls in HIV-infected older adults in the ACTG A5322 study. 9th International HIV and Aging Workshop. New York City. September 13-12, 2018.
  3. Strain J, Smith RS, Cooley S, et al. Neuroimaging correlates of frailty, cognition, and HIV. CROI 2018. March 4-7, 2018. Boston, MA. Abstract 429.
  4. Piggot DA, Abimereki D, Muzaale RV, et al. Frailty and cause-specific hospitalization among persons aging with HIV infection and injection drug use. The Journals of Gerontology: Series A, Volume 72, Issue 3, 1 March 2017, Pages 389–394.
  5. Guaraldi G, Zona S, Silva AR, Menozzi M, Dolci G, Milic J, et al. (2019) The dynamic association between Frailty, CD4 and CD4/CD8 ratio in people aging with HIV. PLoS One. 2019;14(2):e0212283.

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併存疾患はHIV感染者の平均余命および健康度調整平均寿命(HALE)を短縮

Comparative Outcomes and Service Utilization Trends(COAST)研究は、カナダのBritish Columbia州(BC)のすべての既知のHIV感染者と無作為に10%をサンプリングした一般集団を対象に行われ、1996年4月1日~2012年12月31日までの縦断的データを含む後ろ向き研究(20年間)である。症例発見アルゴリズムを用いて、年齢および性別ごとに特定の併存疾患(HIV感染者において高い有病率を示す心血管疾患、呼吸器疾患、肝疾患、腎疾患および非AIDS指標悪性腫瘍)の有病率を明らかにした。死亡に関するデータは、BCのイベントレジストリから得た。HIV感染の有無および性別ごとに20歳における併存疾患に特異的なHALEを推定した。 

HIV感染者9,310例とHIV非感染者510,313例をサンプルとした。研究期間中の死亡は49,605件で、観察人年は5,576,841人年であった。

20歳の時点で、HALEはHIV感染男性では約31年(SD:0.16)、HIV感染女性では27年(SD:0.16)であった。HIV非感染者集団では、HALEは男性で約58年(SD:0.02)、女性で63年(SD:0.02)であった。これらの結果は調整の順番とは独立していると思われる。しかし、HIV感染女性では、一般集団のHIV非感染者と比較して平均余命がはるかに短く(29.1年、SD:0.1 vs 65.4年、SD:0.1)、したがって健康状態が良好である期間が短かった。

罹病期間の短縮(compression of morbidity)の程度にはHIV感染の有無による差はほとんどみられなかったが、HIV感染者は健康状態が良好である期間がより短かった。高齢のHIV感染者の複雑なケアニーズに対処するためのサービス提供の拡大は、平均余命の短縮に対処し、健康状態を改善するためにきわめて重要である。

参考文献

  1. Hogg RS, Eyawo O, Collins AB, et al. Health-adjusted life expectancy in HIV-positive and HIV-negative men and women in British Columbia: A population-based observational cohort study. Lancet HIV. 2017;4(6):e270-e276.

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フランスの高齢HIV感染者コホートでは併存疾患の増加がみられた

フランスのHIV感染者の大規模前向きコホートでは、併存疾患の罹患率が高かった1。長いHIV感染歴を有する高齢者集団では、ほぼ3分の2(62.1%)の患者が1つ以上の併存疾患を有していた。脂質異常症、高血圧、うつ病が最もよくみられる併存疾患であった。複数処方率も同様に高く、長いHIV感染歴を有する高齢者集団の71%がARTと同時に1つのクラスの薬剤投与を受けており、そのうち10%の患者が5つ以上のクラスの薬剤投与を受けていた。向精神薬(睡眠薬を含む)と心血管系薬剤が最も多く処方されていた。

65歳以上の患者に着目した別の研究においても、同様の結果が得られた2。Kongと共同研究者らが実施したこの後ろ向き研究では、65歳以上のHIV感染者とHIV非感染者を対象として、HIVに関連しない疾患と薬剤の負担を比較した。高齢HIV感染者は、HIV非感染の高齢者が罹患するHIVに関連しない疾患の多くを経験する。しかし、HIV感染者の方がHIVに関連しない疾患数が多く、より多くの薬剤を使用する傾向がある。

併存疾患により費用が増える。ドイツの研究では、併存疾患に関連する年間費用はHIV感染者のコホートで平均8,049ユーロであった。最も多くみられた慢性併存疾患は、高血圧(29.3%)、脂質異常(23.9%)、心血管疾患(12.8%)、慢性HCV感染症(8.8%)、糖尿病(8.4%)であった3

参考文献

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