抗HIV薬に対する耐性 Antiretroviral
Resistance

各薬剤耐性の割合における傾向(続き)およびRAM保有率など

欧州では1981~2019年にTDRの割合が減少

Miranda氏らは、1981~2019年にかけて欧州における伝播性および獲得性薬剤耐性の動向を評価した。評価した11,000例以上のHIV感染者において、ART未経験のHIV感染者では2019年の伝播性薬剤耐性の割合が全体で12.8%であることが明らかとなった。

1995年~2019年にかけて、TDRの割合は全体で減少傾向が認められた(p<0.001)。各クラス(NRTI、NNRTIおよびPI)のARVについても、同様の減少傾向が認められた。この解析にINSTIは含まれていなかった。

TDR:伝播性薬物耐性、PWH:HIV感染者

参考文献

  1. Miranda MNS, Pingariho M, Pimentel V, et al. Trends of transmitted and acquired drug resistance in Europe from 1981 to 2019: A comparison between the populations of late presenters and non-late presenters. Front. Microbiol. 2022;13:846943.

目次へ

欧州では1991~2019年にADRの割合が減少

同じ研究において、HIV感染者15,000例以上の獲得性薬剤耐性についても評価した。1981~2019年のADRの割合は68.5%であったが、全体的に減少傾向が認められ、この期間のTDRに認められた傾向と同様の傾向がADRにも認められた(p<0.001)。

保有率が最も高かったのはNRTIクラスに対する薬剤耐性変異(59.1%)で、次いでNNRTI(42.2%)、2クラス耐性(33%)、プロテアーゼ阻害薬(24.2%)の順であった。TDRと同様に、これらのARVクラスに対するADRの割合についても減少傾向が認められた。

ADR:獲得性薬剤耐性、PWH:HIV感染者

参考文献

  1. Miranda MNS, Pingariho M, Pimentel V, et al. Trends of transmitted and acquired drug resistance in Europe from 1981 to 2019: A comparison between the populations of late presenters and non-late presenters. Front. Microbiol. 2022;13:846943.

目次へ

多剤耐性HIVの保有率は減少

近年、多剤耐性HIVの保有率も減少していることがデータで示されている。

2012年7月1日~2018年6月30日に米国で日常診療の一環として採取され、NRTI、NNRTI、PIおよびINSTIに対する耐性検査のために提出され、市販の検査による遺伝子型検査が行われた84,611検体の解析では、1つ以上のARVに対する耐性が認められた検体は33.0%(27,911検体)であった。この解析では、伝播性薬剤耐性関連変異と獲得性薬剤耐性関連変異を区別することはできなかった。

少なくとも1剤のNNRTIに対する感受性の低下が認められた検体が最も多く(いずれかの薬剤耐性が認められる検体の約75%)、2018年までその割合は一定であった(73.3%)。NRTIおよびPI耐性の割合は研究期間中に減少した:少なくとも1剤のNRTIに耐性が認められる検体の割合は2012年の54.8%から2018年の40.8%、少なくとも1剤のPIに耐性が認められる検体の割合は2012年の14.7%から2018年の8.3%。少なくとも1剤のINSTIに耐性が認められる検体の割合は2012年の20.2%から2014年には15%に減少し、その後一定であった(2018年は17.2%)。

2クラス以上のARVに耐性が認められる検体の割合も2012年~2018年に減少した:

  • 2クラス耐性:33.5%→21.9%
  • 3クラス耐性:11.3%→5.5%
  • 4クラス耐性:3.1%→1.1%

注目すべきことに、多剤耐性HIVが検出される検体において、ほとんどがそのクラスに耐性を示す場合でも同じクラス内の少なくとも1剤のARVに対する感受性が保たれていた:

  • 78.7%が依然として1剤以上のNNRTIに感受性を示した。
  • 93.4%が1剤以上のNRTI
  • 97.9%が1剤以上のPI
  • 93.7%が1剤以上のINSTI、このうち29.1%が1剤のINSTIに感受性を示した。

検査データより、NRTI、PIおよびINSTI耐性の割合の減少に加え、多剤耐性HIV保有率の減少が認められた。この傾向は、良好な交差耐性プロファイルを有し、有効性の改善が示され、アドヒアランスの改善につながるより利便性の高い製剤を用いた新しい治療選択肢が利用可能になったことと一致する。

参考文献

  1. Henegar C, Underwood M, Ragone L, et al. Trends and characteristics of HIV-1 drug resistance in the United States (2012-2018). Program and abstracts of the 2020 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections. March 8-11, 2020. Boston, MA (Virtual). Abstract 521.

目次へ

年齢によるRAM保有率の有意差

耐性関連変異(RAM)保有率は、年齢、性別および地域によって大きな差があることが明らかとなった。Yang氏らの研究では、米国でルーチン検査用に提出された64,000例以上の患者検体を解析対象として、年齢、性別および地域別のRAM保有率と2015~2018年の動向について評価した。

検体の58.6%でRAMが認められた。

著者らは、50歳超の集団で認められたRAM保有率の高さは、複数のARVレジメンによる治療歴のある患者が多いことを反映している可能性があり、一方、20歳以下の集団で高いRAM保有率が認められたのは、過去のARVレジメンへのアドヒアランスが不十分であったことを反映している可能性があることを示唆した。

NRTIおよびPIに対する RAM保有率は、他の地域と比較して米国の南部で低かった。

性別による各薬剤クラスの差はわずかであったが、統計学的に有意であった。

参考文献

  1. Yang D, Lai J, Cal S, et al. HIV resistance-associated mutations observed in cell-associated DNA sequencing assay. Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections. May 4-7, 2019. Seattle, WA. Abstract 543. 

目次へ

最近PrEP(曝露前感染予防薬)を服用し、HIVに感染した患者に対する診断時のルーチンの薬剤耐性検査の重要性

PrEP服用の増加により、ARV耐性とウイルス学的失敗の可能性が懸念されている。薬剤耐性は、主に未診断のHIV感染者がPrEPを開始した際に生じ、PrEPの失敗によることはほとんどない。

診断前のPrEP服用歴のあるHIV感染者のPrEPとして使用する薬剤に対する耐性の割合に関する理解を深めるために、New York City Department of Healthで研究を実施した。著者らは、2015~2017年のデータを用い、PrEP服用者とPrEP服用歴がない患者を対象に、PrEPとして使用するARVに対する耐性と急性HIV感染症の発症率を比較した。研究者らは、この期間中にHIV感染症と診断された3,685例のうち、診断前にPrEPを服用していた91例(2%)を特定した。HIV感染症診断前にPrEPを服用していた期間の中央値は3.4ヵ月、PrEP開始からHIV感染症診断までの期間の中央値は8.1ヵ月であった1。最近診断されたPrEP服用歴がない患者と比較して、PrEP服用者は白人(41%対14%)、30歳未満(58%対37%)、シスジェンダーの男性(92%対76%)、MSM(89%対66%)の割合が高かった1。診断前PrEP服用者75%とPrEP服用歴がない患者63%について、遺伝子型検査の結果が入手可能であった。遺伝子型解析より、FTC耐性を付与するM184変異が診断前PrEP服用者群の29%で検出されたのに対し、PrEP服用歴がない患者群では2%であった。TDF耐性に関連するK65R変異は、診断前PrEP服用者群では認められなかった1。診断前PrEP服用者の3分の1が急性HIV感染症を発症したのに対し、PrEP服用歴がない患者では9%であった。

同様の結果は、2018年にTDF/FTCによるPrEPの服用を開始したケニアで実施された研究でも認められた2。この研究では、PrEPを服用していた推定25,000例のうち67例にセロコンバージョンが認められ、そのうちの55例(82%)から検体を採取した。11例(20%)におけるセロコンバージョンはPrEP開始から6週間以内に認められた。遺伝子型検査が成功した30例のうち、10例(33%)にHIVの主要な薬剤耐性変異が検出された:K65RおよびK70E変異は検出されず、5検体(17%)にM184V変異、9検体(30%)にK101E、K103N、V106I、G190AおよびY181CなどのNNRTI耐性を付与する主要な変異が1つ以上検出された。

参考文献

  1. Misra K, Huang J, Daskalakis DC, Udeagu CC. Impact of PrEP on drug resistance and acute HIV infection, New York City, 2015-2017. Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections (CROI). March 4-7, 2019. Seattle. Abstract 107.
  2. Chohan B, Bosak E, Mukui I, et al. Monitoring of HIV drug resistance among seroconverters on PrEP in Kenya. Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections (CROI). March 6-10, 2021. Virtual. Abstract 427.

目次へ