抗HIV薬に対する耐性 Antiretroviral
Resistance

薬剤耐性と交差耐性の機序
▶︎その他の抗HIV薬(ARV)に対する耐性

コレセプター転換またはCCR5への結合を可能にする変異によるMVC耐性

CCR5阻害薬であるマラビロクはCCR5受容体に結合し、gp120とCCR5の相互作用に拮抗する。
マラビロク耐性は、2つの異なる機序を介して発現する。

  • ウイルスがCXCR4コレセプターを使用し始めることがあり、これは最もよくみられる機序である。
  • あまり一般的ではないが、マラビロクが結合したCCR5受容体にgp120が結合できるような変異が生じる。

ウイルスがCCR5指向性から二重/混合指向性またはCXCR4指向性へ変化したと考えられる場合、de novoに生じた変化よりもマイナーバリアントであるHIV株が体内で主流になったことが原因であることが多い。

Monogram Biosciences社のEnhanced Sensitivity Trofile® Assay (ESTA)は、従来のTrofile®よりもこれらのマイナーバリアントを検出する感度が高い。Trofile®は臨床で用いられてきたことから、また、マラビロクの臨床試験での指向性の評価に用いられていたことから、本検査は依然として指向性の評価におけるゴールドスタンダードである。

しかし、遺伝子型検査による指向性の評価はTrofile®との一致度が高く、従来のTrofile®と比較した場合、マラビロクに対する短期的なウイルス学的反応を予測する能力が同程度であることが示されている1

CCR5指向性ウイルスがCCR5阻害薬に対して耐性を獲得すると、通常、gp120のV3 loop stemに変化がみられるが、gp41における変化もCCR5阻害薬に対する耐性と関連付けられている2,3

env遺伝子にはさまざまな変異パターンがあると考えられており、遺伝子型の変化に基づく予測ルールはまだ作成されていない。

参考文献

  1. Raymond S, Delobel P, Mavigner M, et al. Correlation between genotypic predictions based on V3 sequences and phenotypic determination of HIV-1 tropism. AIDS. 2008;22:F11-F16.
  2. McGovern RA, Thielen A, Mo T, et al. Population-based V3 genotypic tropism assay: A retrospective analysis using screening, samples from the A4001029 and MOTIVATE studies. AIDS. 2010;24:2517-2525. 
  3. Anastassopoulou CG, Ketas TJ, Klasse PJ, Moore JP. Resistance to CCR5 inhibitors caused by sequence changes in the fusion peptide of HIV-1 gp41. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009;106:5318-5323.

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Ibalizumab:抗CD4抗体である接着後阻害薬(post attachment inhibitor)

Ibalizumab(IBA)はCD4に結合し、CD4+T細胞へのHIVの侵入を阻害する接着後阻害薬である。正常な免疫機能を保っているCD4+T細胞へのHIV感染を防ぎ、様々な臨床分離株に対して強力な活性を示し、既存のARVとの交差耐性の証拠は認められていない。

患者の43%に対し、最適化された併用薬の投与レジメンにfostemsavirを含める必要があった第III相TMB-301試験に組み入れられ、多剤治療歴を有する38例(感染期間の中央値23年、ウイルス量の中央値35,350コピー/mL、CD4+細胞数の中央値73個/µL、28%には10剤以上の投与歴あり)から分離したHIV株に対して、用量反応曲線から求めた最大阻害率(MPI)およびIC halfmaxのfold change(FC)をIBAに対する感受性/IBAの力価の指標としてモニターを行った。他のARVに対する耐性は試験組み入れ時のIBAに対する感受性に影響を及ぼさず、試験組み入れ時のIBAに対する感受性は全体的な有効性の結果に影響を及ぼさないようであった1

IBAは多剤耐性HIV-1に対して活性を有することが示されており、多剤耐性HIV-1を有し、現在のレジメンに失敗している多剤治療歴を有する患者に対する使用が米国食品医薬品局(FDA)に承認されている2

参考文献

  1. Weinheimer S, Marsolais C, Cohen Z, et al. Ibalizumab susceptibility in patient HIV isolates resistant to Antiretrovirals. CROI 2018. March 4-7, 2018. Boston, MA. Abstract 561. 
  2. Emu B, Lalezari J, Kumar P, et al. Ibalizumab: 96-week data and efficacy in patients resistant to common antiretrovirals. CROI 2019. March 4-7, 2019. Seattle, WA. Abstract 485.

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Fostemsavir(FTR):gp120に結合する接着阻害薬

Fostemsavir(FTR)は、temsavir(TMR)のプロドラッグであり、HIV-1エンベロープ糖蛋白であるgp120に結合する接着阻害薬である。TMRは、gp120と結合することによってウイルスが宿主T細胞のCD4受容体に結合する能力を低下させ、ウイルスの侵入を阻止する。

FTRは多剤耐性HIV-1に対して活性を示し、多剤耐性HIV-1を有し、現在のレジメンに失敗している多剤治療歴を有する患者に対する使用が2020年8月に米国FDAに承認された。FTRに対する感受性の変化に関する臨床的カットオフ値はなく、臨床的に利用可能な薬剤耐性検査もない1

いくつかの試験より、TMRに対する感受性に影響を及ぼすgp120領域の4つの変異(S375、M426、M434およびM475)が特定されている2,3,4。BRIGHTE試験の無作為化コホートにおいて、48週までにウイルス学的失敗がみられた患者47例中20例(43%)に対する遺伝子型検査の結果より、投与期間中に発現したgp120の4つの位置のうち1つ以上のアミノ酸に置換変異が認められた。これらの置換変異のうち、最もよくみられたのはS375NおよびM426Lであった5

Fostemsavirは、in vitroで侵入阻害薬を含む他のクラスのARVとの交差耐性はない6,7。ibalizumabに耐性を示す7つのHIV株を対象とした試験では、2つのHIV株でTMR(感受性が1,400倍超低下)とibalizumabの両方に対する感受性が低下していた1。マラビロク耐性関連変異もenv のgp120領域に発現する可能性があり、マラビロク耐性を示すCCR5指向性HIVの一部ではTMRに対する感受性が低下していることが示されている1。さらに、ibalizumab、マラビロク、enfuvirtide、INSTIのラルテグラビル、NNRTI(エファビレンツ、リルピビリン)、NRTI(アバカビル、テノホビル)およびPI(アタザナビル、ダルナビル)は、TMRに対する感受性が低下した部位特異的変異体(S375M、M426LまたはM426L+M475I)またはベースライン時のTMRに対する感受性が低下していた臨床分離株のエンベロープに対する活性を保持していた1

しかし、ある研究では、プロトコールで規定されたウイルス学的失敗(PDVF)が認められ、TMRに対する感受性が低下し、併用薬(ibalizumabまたはマラビロク)に対する耐性が認められたBRIGHTE試験の患者から得られた血漿サンプル由来の6つのエンベロープを調べた8。PDVF時に、すべてのエンベロープにTMRに対する感受性に影響を及ぼすことが知られているgp120領域の1つ以上の位置に、アミノ酸変異が発現または既存していた。これらをコンセンサス配列に戻すと、併用薬に対する耐性に影響を及ぼすことなくすべての症例でTMRに対する感受性が完全に回復した。したがって、著者らは、TMRに対する感受性の低下とibalizumabまたはマラビロクに対する耐性は関連しておらず、ibalizumabまたはマラビロクとFTRとの交差耐性はないと結論付けている。

参考文献

  1. GlaxoSmithKline. Rukobia US prescribing information. Available at: https://www.gsksource.com/pharma/content/dam/GlaxoSmithKline/US/en/Prescribing_Information/RUKOBIA/pdf/RUKOBIA-PI-PIL.PDF. August, 2020. Accessed May 10, 2021.
  2. Ray N, Hwang C, Healy MD, et al. Prediction of virological response and assessment of resistance emergence to the HIV-1 attachment inhibitor BMS-626529 during 8-day monotherapy with its prodrug BMS-663068. J Med.J Acquir Immune Defic Syndr. 2013;64:7-15.
  3. Zhou N, Nowicka-Sans B, McAuliffe B, et al. Genotypic correlates of susceptibility to HIV-1 attachment inhibitor BMS-626529, the active agent of the prodrug BMS-663068. J Antimicrob Chemother. 2014;69:573-581.
  4. Lataillade M, Zhou N, Joshi SR, et al. Viral drug resistance through 48 weeks, in a phase 2b, randomized, controlled trial of the HIV-1 attachment inhibitor prodrug, fostemsavir. J Acquir Immune Defic Syndr. 2018;77:299-307.
  5. Kozal M, Aberg J, Pialoux G, et al. Fostemsavir in Adults with Multidrug-Resistant HIV-1 Infection. N Engl J Med. 2020;382:1232-1243.
  6. Nowicka-Sans B, Gong YF, McAuliffe B, et al. In vitro antiviral characteristics of HIV-1 attachment inhibitor BMS-626529, the active component of the prodrug BMS-663068. Antimicrob Agents Chemother. 2012;56:3498-3507.
  7. Li Z, Zhou N, Sun Y, et al. Activity of the HIV-1 attachment inhibitor BMS-626529, the active component of the prodrug BMS-663068, against CD4-independent viruses and HIV-1 envelopes resistant to other entry inhibitors. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:4172-4180.
  8. Rose B, Gartland M, Stewart E, et al. Reduced susceptibility to temsavir is not linked to IBA or MVC resistance. Program and abstracts of the 2021 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections. March 6-10, 2021. Virtual. Abstract 422.

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レナカパビル(LEN):ファースト・イン・クラスのカプシド阻害薬

レナカパビル(LEN)はHIV-1のカプシド阻害薬で、多剤耐性HIV-1を有し、薬剤耐性、忍容性または安全性の問題で現在のARTレジメンに失敗している多剤治療歴を有する成人に対して、HIV-1感染症治療に他のARVとの併用薬として適応がある1

レナカパビルは、カプシドを介したHIV-1プロウイルスDNAの核内移行の阻害(核内移行タンパク質のカプシドへの結合を阻害することによる)、ウイルスの形成と放出の阻害(Gag/Gag-Polの機能を阻害し、カプシドタンパク質サブユニットの産生を低下させることによる)、カプシドコア形成の阻害(カプシドサブユニットの会合を阻害して異常な形状のカプシドを形成することによる)など、ウイルスのライフサイクルの複数の重要な段階に干渉することで、HIV-1の複製を阻害する1

CAPELLA試験では、多剤治療歴を有する患者の31%(22/72例)が52週時の耐性解析の基準を満たし(ウイルス学的失敗の確認時点でHIV-1 RNA量が50コピー/mL以上[ 4週時点のウイルス学的効果不十分、最終来院時のウイルス学的リバウンドまたはウイルス血症])、レナカパビル耐性に関連する置換変異の発現について解析した。レナカパビル耐性に関連するカプシドタンパク置換変異は、ベースライン後の耐性に関連するカプシドタンパク変異を調べる遺伝子型検査の結果があり(22例)、ウイルス学的失敗が確認された患者の41%(9例)に認められた。CAのM66I置換変異は27%(6/22例)の患者に認められ、単独またはQ67Q/H、Q67Q/H/K/N、K70K/R、K70N/S、N74D、N74N/H、A105T、T107Aなど他のレナカパビル耐性関連カプシドタンパク置換変異との組み合わせで認められた。その他のウイルス学的失敗が認められた患者3例では、レナカパビル耐性関連のカプシドタンパク置換変異であるQ67K+K70H、Q67H+K70R+T107SおよびQ67Q/Hの発現がみられた1-3

参考文献

  1. Gilead.com. Sunlenca. https://www.gilead.com/-/media/files/pdfs/medicines/hiv/sunlenca/sunlenca_pi.pdf. December, 2022. Accessed February 7, 2023.
  2. Margot N, VanderVeen L, Naik V, et al. Resistance analysis of long-acting Lenacapavir in highly treatment-experienced people with HIV after 52 weeks of treatment. AIDS 2022. Montreal, Canada. 29 July – 2 August, 2022. Abstract 240.
  3. VanderVeen L, Margot N, Naik V, et al. Resistance analysis of long-acting lenacapavir in treatment-naive people at 54 weeks. AIDS 2022. Montreal, Canada. 29 July02 August 2022. Abstract EPB239.

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